問106
生体において解糖や糖新生は、アルドラーゼにより触媒される可逆過程(アルドール反応及び逆アルドール反応)を含む。 Aの構造式として正しいのはどれか。1つ選べ。ただし、構造式はすべて鎖状構造を示している。
正解 (3)
この反応は、解糖におけるフルクトース-1,6-ビスリン酸(FBP)がグリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)とジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)になる段階です(糖新生ならその逆)。 よって、FBPの構造を知っていればそれで答えが出せますが、そうでなくても問題文に書いてあるアルドール反応というヒントから解けばよいです。
これは平衡反応なので、未知のAから既知の化合物が生成する反応ではなく、この解説では、既知の化合物からAに変化する反応について考えていきます。
アルドール反応とは、酸もしくは塩基の存在下、α水素を有するアルデヒドまたはケトンが2分子間で起こす付加反応のことです。 まずは1分子目のα水素が脱プロトン化し、それが2分子目のカルボニル基にアタックすることで付加反応が成立します。 (下図の反応式は概略で、より具体的な反応機構は後述します。)
ここで問題に戻ると、一方がアルデヒド、他方がケトンであり、どちらが脱プロトン化して他方をアタックするのかを考える必要があります。 選択肢はいずれも炭素が6つ縦に並んでいるので側鎖がありません。 よって、アタックされる側はアルデヒドであることがわかります(ケトンのカルボニル基にアタックすると、側鎖を生じてしまいます)。
続いて、ケトンのα水素を引き抜くことが反応の始まりとなりますが、どのα水素が抜けるかによって生成物が変わるため、ここも考えなくてはいけません。 けれどこれは結構単純で、「-CH2-OPO32-」は負電荷を持っていて電子が豊富なので、求核剤が近づきにくい状態となっています。 一方の「-CH2-OH」は酸素の電気陰性度によってメチレン基の電子が引っ張られているので求核性は高まっています。 よって、反応の起点となるα水素は、メチレン基のところです。
以上から、このアルドール反応の反応機構は次のようになります。 (「-CH2-OPO32-」はRと略しています。)
よって、正解は3です。
問107
図は、ある化合物の1H-NMRスペクトル(300MHz、CDCl3、基準物質はテトラメチルシラン(TMS))である。この化合物の構造式はどれか。1つ選べ。 なお、イのシグナルは一重線であり、エのシグナルはヒドロキシ基のプロトンに由来する。
正解 (2)
NMRスペクトルの問題はどこからアプローチしてもよいのですが、わかりやすいのはイの3Hです。 選択肢を見ると、1には-CH3がないので不適、4と5は-CH3が2つあるのでこれらも不適です。 2と3は-CH3が1つで、かつ、隣接炭素には水素が付いていないのでイのシグナルがシングレットであることに矛盾しません。
よって、答えは2か3なので、これらで違うところに注目します。 2と3では上記で注目した-CH3の場所が異なり、2ではエーテルの隣、3ではアリル位(アルケンの二重結合の1つ隣)です。 エーテルのシグナルは3~4ppm、アリル位のシグナルは1.5~2ppmくらいに出るはずですが、イのシグナルは3.9ppmなので、これはエーテルの隣が正しいと判断できます。
以上から、正解は2となります。
一応、2で正しいかをほかのシグナルから確認しておきます。 芳香環に直接付いている水素のシグナルは6~9ppmくらいに見られるので、カとキの計3H分がこれに当たります。 アルケンに付いている水素のシグナルは4.5~6ppmくらいに見られるので、ウの2Hがアルケンの末端側、オの1Hがアルケンの他方側に対応します。 エのシグナルは問題文に記載された通りヒドロキシル基で、残るアのシグナルがメチレン基の2Hということになります。
問108
天然物A~Eの生合成に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.Aは、シキミ酸経路と酢酸-マロン酸経路の複合経路で生合成される。 2.Bは、酢酸-マロン酸経路とイソプレノイド経路の複合経路で生合成される。 3.Cは、イソプレノイド経路で生合成される。 4.Dは、シキミ酸経路で生合成される。 5.Eは、トリプトファン由来のアミノ酸経路とイソプレノイド経路の複合経路で生合成される。
正解 (1)、(4)
選択肢 1 は、正しい記述です。 A は、レスベラトロールです。 ポリフェノールの一種です。 シキミ酸と酢酸-マロン酸の複合経路で 生合成されます。
選択肢 2 ですが B は、ダイゼインです。 シキミ酸経路と酢酸-マロン酸経路の 複合経路で生合成されます。 イソプレノイドとの複合経路ではありません。 よって、選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが C は、エモジンです。 1分子のアセチルCoAと 7分子のマロニルCoAから生合成されます。 イソプレノイド経路ではありません。 よって、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は、正しい記述です。 D は、カフェイン酸です。 C6-C3構造に注目すれば フェニルプロパノイドとわかります。 従って、シキミ酸経路で生合成されると 判断できます。
選択肢 5 ですが E は、パパベリンです。 チロシン由来のアルカロイドです。 トリプトファン由来ではありません。
(トリプトファンはインドール環ですが パパベリンはイソキノリン環である点から 誤りと判断できると考えられます。) よって、選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 1,4 です。
類題 96-38,98-109,102-109
問109
生薬の基原と用途に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.キョウニン及びトウニンは、いずれもバラ科植物の種子を基原とし、駆瘀血薬として用いる。 2.トウキ及びセンキュウは、いずれもセリ科植物の葉を基原とし、それぞれ補血薬及び駆瘀血薬として用いる。 3.ショウキョウ及びカンキョウは、いずれもショウガ科植物ショウガの根茎を基原とするが、加工法が異なっており、薬効にも違いが認められる。 4.ニンジン及びコウジンは、いずれもセリ科植物オタネニンジンの根を基原とし、補気薬として用いる。 5.ソウジュツ及びビャクジュツは、いずれもキク科植物の根茎を基原とし、利水薬として用いる。
正解 (3)、(5)
選択肢 1 ですが トウニンについては正しい記述です。
キョウニンについては バラ科種子が基原ですが 鎮咳去痰薬として用いられます。 駆瘀血薬ではありません。 よって、選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが トウキは根、センキュウは根茎が基原です。 ともに「葉」ではありません。 他は正しい記述です。 よって、選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は、正しい記述です。 生がショウキョウ 蒸して乾燥させたものがカンキョウです。
選択肢 4 ですが セリ科ではなく、ウコギ科です。 他は正しい記述です。 よって、選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は、正しい記述です。
以上より、正解は 3,5 です。
問110
図は、腎臓のネフロンの概略を示している。 健常人の腎臓における体液調節に関与する部位ア~オについての記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.アは、主に腎臓の髄質部に局在している。 2.イでは、炭酸脱水酵素が関与してHCO3-が原尿中に分泌される。 3.ウでは、管腔内の水が受動的に再吸収される。 4.エでは、Na+とCl-が管腔内から間質液中へ輸送される。 5.オに分布するNa+/K+交換系は、アルドステロンにより抑制される。
正解 (3)、(4)
選択肢 1 ですが アは、腎小体です。 主に腎臓の皮質部に局在します。 髄質部では、ありません。 よって、選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが イは、近位尿細管です。 近位尿細管では、炭酸脱水酵素が関与して 原尿中に H+ が原尿中に分泌されます。 HCO3-では、ありません。 よって、選択肢 2 は誤りです。
※アセタゾラミドのような 炭酸脱水酵素「阻害」薬により 尿がアルカリに傾く ということから
炭酸脱水酵素の関与により 原尿中に分泌されているのは H+ と 推測すればよいと考えられます。
選択肢 3,4 は、正しい記述です。 それぞれウはヘンレのループ、エは遠位尿細管についての記述です。
選択肢 5 ですが アルドステロンの作用は Na+/K+ 交換系による Na+再吸収の「促進」です。 抑制ではありません。 よって、選択肢 5 は誤りです。
(ちなみに Na+再吸収をたくさんすれば 尿は減ります。
「抗」アルドステロン薬が 利尿薬として用いられる点から 推測できる内容と考えられます。)
以上より、正解は 2,3 です。
参考 生化(1)1-8 1)
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