問220-221
48歳女性。既往歴 乳がん、StageⅠ。2年前の術後より再発予防の目的で以下の処方にてホルモン療法を受けている。
(処方) タモキシフェン錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 90日分
問220
タモキシフェンの代謝に関わるCYP2D6には、その酵素活性に変化をきたす遺伝子多型が多数知られている。 図はその一部の多型と乳がん術後タモキシフェンの単剤治療症例における無再発生存率との関連性を示している。 遺伝子多型に関する記述及び図の解釈として、誤っているのはどれか。1つ選べ。
1.遺伝子多型には、1つの塩基が他の塩基に置き換わっているものがある。 2.翻訳されるタンパク質のアミノ酸配列は、翻訳領域においてフレームシフト変異した遺伝子とその野生型遺伝子では異なる。 3.PCR法を利用することで、CYP2D6の遺伝子変異を検出することができる。 4.変異型遺伝子をホモでもつ症例 [CYP2D6(*10/*10)] では、野生型遺伝子をホモでもつ症例 [CYP2D6(wt/wt)]と比べて、タモキシフェンの代謝が減弱していると考察される。 5.CYP2D6(*10/*10)の症例では、タモキシフェンによる抗腫瘍効果が増強していると考察される。
正解 (5)
選択肢 1~3 は、正しい記述です。 遺伝的多型とは 個人ごとの遺伝子の違いのことです。
その中には 1塩基だけ置換されているものもあります。 これは特に SNPs と呼びます。
選択肢 2,3 は、正しい記述です。 塩基の挿入、欠失によって 遺伝子の読み枠がずれてしまうことを フレームシフト突然変異と呼びます。
例えば、・・・|ATG|CAG|G・・・だったものが 左から3つ目のGが欠失して ・・・|ATC|AGG|・・・ となったものです。 この結果、翻訳されるアミノ酸配列は異なるものとなります。
PCR とは DNA の熱変性→プライマーのアニーリング →DNA 鎖の合成・伸長からなる3段階反応を 繰り返すことで目的 DNA を増幅する反応です。
選択肢 4 ですが まず図から、変異型/変異型 の方が 無再発生存率が明らかに低いことが 読み取れます。
タモキシフェンの代謝物が薬効に関与し かつ、代謝酵素能が変化することによって 薬効を減弱させていると考えられます。
従って タモキシフェンの代謝が減弱している という考察は誤りではありません。
(この図だけからであれば 変異は代謝能を亢進させている という可能性も否定できないのですが かといって、この選択肢を誤り とすることはできません。 また、明らかに次の記述が誤りです。)
選択肢 5 ですが 変異型/変異型 の方が 無再発生存率が明らかに低いです。 従って、抗腫瘍効果が「増強」という記述は 明らかに誤りです。
以上より、正解は 5 です。
問221
この患者は、最近、精神的に不安定となり、不安発作が頻回になった。 本症状の改善のための処方追加を検討するにあたり、タモキシフェンとの併用の観点から問題となる薬物について医師から問い合わせがあった。 本症例に対して併用を注意すべき薬物はどれか。1つ選べ。
1.セチプチリンマレイン酸塩 2.ミルナシプラン塩酸塩 3.パロキセチン塩酸塩水和物 4.ロラゼパム 5.ロルメタゼパム
正解 (3)
代謝に 2D6 が関与する ということから パロキセチンは併用注意です。 パロキセチンは CYP 2D6 を阻害します。
よって、正解は 3 です。
ちなみに セチプチリンマレイン酸塩は 四環系抗うつ薬です。
ミルナシプラン(トレドミン)は SNRIです。 セロトニン、ノルアドレナリンの再取り込みを 阻害します。
ロラゼパム、ロルメタゼパムは 共にBz系薬です。 |