薬物吸収に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。 1 鼻粘膜は、全身作用を目的としたペプチド性薬物の投与部位として利用されている。 2 吸入されたステロイドは、その大部分が全身循環血に吸収され治療効果を示す。 3 ニトログリセリンの経皮吸収型製剤は、胸の近傍に貼付しなければならない。 4 ウィテプゾールを基剤とする坐剤は、体温で基剤が融解し主薬が吸収される。 鼻粘膜は、全身作用を目的としたペプチド性薬物の投与部位として利用されています。 代表例は、デスモプレシン点鼻液です。 デスモプレシンはバソプレシンの誘導体で、9つのアミノ酸からなるペプチドです。 そのため、経口投与では、分解されてしまいます。 中枢性尿崩症や、夜尿症の治療に用いられます。 吸入されたステロイドは、気道や肺において局所作用を示します。 量がとても少ない上に、気道や肺粘膜から吸収されにくく、全身作用は ほとんど見られません。 よって、大部分が全身循環血に吸収され治療効果を示すわけではないので 選択肢 2 は誤りです。 ニトログリセリンの経皮吸収型製剤は、胸、腰、腕などに貼って使用します。 新しい薬に貼り替える時に、皮膚のかぶれなどを避けるために、貼っていた所とは 異なる場所に貼るよう、指導が必要な薬です。 よって、胸の近傍に貼付しなければならないわけではないので 選択肢 3 は誤りです。 ウィテブゾールは、坐剤の基剤の1つです。 疎水性基剤に分類されます。 体温で溶解し、薬物が放出されます。 以上より、正解は 1,4 です。 問167 単純拡散による薬物の生体膜透過に関する記述のうち、正しいのはどれか。 1つ選べ。 1 イオン形薬物は、非イオン形薬物と比べて透過性が高い。 2 脂溶性薬物は、水溶性薬物と比べて透過性が高い。 3 高分子薬物は、低分子薬物と比べて透過性が高い。 4 透過速度はMichaelis-Menten式で表される。 5 構造類似薬物の共存により、透過速度が低下する。 単純拡散においては、脂溶性が高い、分子形薬物ほど、透過性が高くなります。 つまり、非イオン薬物の方が、イオン形薬物よりも透過性が高いです。 これはFickの法則と呼ばれます。 よって、イオン形薬物の方が、非イオン形薬物とくらべて透過性が高いわけではないので 選択肢 1 は誤りです。 単純拡散においては、脂溶性が高いほど、透過性が高くなります。 よって、脂溶性薬物は、水溶性薬物と比べ、透過性が高くなります。 単純拡散において、分子量は、透過性と関連がありません。 よって、高分子薬物が、低分子薬物とくらべて透過性が高いわけではないので 選択肢 3 は誤りです。 単純拡散の透過速度は、Fickの法則で表されます。 Michaelis-Menten式ではないので、選択肢 4 は誤りです。 ちなみに、Michaelis-Menten式は、酵素の反応速度に関する式です。 単純拡散において、構造類似薬物の共存は、透過性と関連がありません。 よって、構造類似薬物の共存により、透過速度が低下するわけではないので 選択肢 5 は誤りです。 ちなみに、構造類似薬物の共存により、透過速度が低下するのは 促進拡散や能動輸送といった、トランスポーターが介在する物質輸送と 考えられます。 以上より、正解は 2 です。 問168 薬物の組織移行に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。 1 皮膚、筋肉、脂肪などの組織では、組織単位重量あたりの血流量が小さいために、一般に血液から組織への薬物移行が遅い。 2 脈絡叢では上皮細胞どうしが強固に結合し、血液脳脊髄液関門を形成している。 3 分子量5,000以下の薬物は、筋肉内投与後、リンパ系に選択的に移行する。 4 組織結合率が同じ場合、血漿タンパク結合率が低い薬物に比べ高い薬物の分布容積は大きい。 薬物が組織に移行する速度は、組織への血流速度などに依存します。 血液の流れに乏しい組織(例として、皮膚や筋肉や脂肪)では、分布が一般に遅くなります。 脈絡叢とは、脳脊髄液を産生する部位です。 上皮細胞同士が密着結合をした、血液脳脊髄液関門が形成されています。 皮下投与や、筋肉内投与を行った薬物は、分子量が5000以上になると リンパ管系へと移行する傾向が見られます。 よって、分子量5000以下の薬物が、筋肉内投与後、リンパ系に選択的に移行するわけではないので 選択肢 3 は誤りです。 まず、血漿タンパクと結合している薬物は、組織へと移行することができません。 又、分布容積とは、投与した薬物量と、血中濃度の比です。 言い換えると、投与した薬物がどの程度組織へと移行したかを示す量であり 分布容積が大きいほど、組織へと移行したことを示します。 よって、血漿タンパク結合率が高い薬物の方が、組織へと移行しづらく 分布容積は小さい値を示すはずなので、選択肢 4 は誤りです。 以上より、正解は 1,2 です。 問169 シトクロムP450 (CYP) に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。 1 ヒト肝組織中の存在量が最も多い分子種はCYP2D6である。 2 エタノールの生体内での酸化反応に関与する。 3 グルクロン酸抱合反応を担う主な酵素である。 4 遺伝的要因によりCYP2C19の代謝活性が低い人の割合は、白人と比較して日本人の方が少ない。 5 セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含む健康食品の摂取で、CYP3A4の誘導が起こる。 存在量が最も多い分子種はCYP3A4です。 よって、2D6 ではないので、選択肢 1 は誤りです。 CYP2E1 は、エタノールをアセトアルデヒドに代謝する酵素です。 アルコールからアルデヒドへの変換は、酸化反応です。 CYPは酸化反応を担っています。 グルクロン酸抱合反応を担うのは、UDP-グルクロニルトランスフェラーゼです。 よって、選択肢 3 は誤りです。 遺伝的要因により、CYP2C19の代謝活性が低い人の割合は 白人が約3%、日本人が約20%です。 よって、遺伝的要因によりCYP2C19の代謝活性が低い人の割合は 日本人の方が多いので、選択肢 4 は誤りです。 セントジョーンズワートは、CYP3A4 の誘導を引き起こします。 そのため、CYP3A4 で代謝される薬物のいくつか等と 併用に注意する必要のあるサプリメントです。 問170 P−糖タンパク質に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。 1 二次性能動輸送担体の1つである。 2 小腸上皮細胞に発現し、薬物の吸収を妨げる。 3 脳毛細血管内皮細胞に発現し、薬物の中枢移行を促進する。 4 肝細胞に発現し、薬物の胆汁排池を促進する。 5 腎尿細管上皮細胞に発現し、薬物の再吸収を促進する。 二次性能動輸送とは、一次性能動輸送すなわちATPを用いた 濃度勾配に逆らった物質輸送により生じた、イオン勾配を駆動力として 行われる物質輸送の形式です。 P-糖タンパク質による能動輸送は、ATPを直接用いた 一次性能動輸送です。 よって、二次性能動輸送担体の1つではないので、選択肢 1 は誤りです。 参考)ちなみに、P-糖タンパク質の Pは、permeability (透過性) の頭文字です。 多剤耐性化した腫瘍細胞における、薬物の膜透過性を変化させる要素として 発見されたという歴史的経緯を反映しています。 P-糖タンパク質は、様々な薬物を能動的に細胞外へ排出する役割を担っています。 言い換えると、薬物の細胞内への吸収を妨げます。 又、体内の様々な組織において発現し、小腸上皮細胞にも発現しています。 P-糖タンパク質は、血液脳関門における実態を担っています。 すなわち、中枢へと薬物が移行しないように、能動的に薬物の排出を行なっています。 薬物の中枢移行を「促進」ではありません。 よって、選択肢 3 は誤りです。 肝臓において発現しているP-糖タンパク質は、様々な薬物を胆汁中に 排泄する役割を果たしています。 速やかな薬物の排出に貢献しているといえます。 P-糖タンパク質は、腎尿細管上皮細胞にも発現しており 薬物を尿細管腔側へと排出しています。 すなわち、尿細管分泌を担っています。 よって、再吸収の促進ではないため、選択肢 5 は誤りです。 以上より、正解は 2,4 です。 問171 薬物Bの併用が薬物Aの体内動態に及ぼす影響として、正しいのはどれか。 2つ選べ。
リボフラビンは、十二指腸の限られた領域でゆっくり吸収されます。 そのため、胃内容排出速度(gastric emptying rate : GER)の影響を受けます。 具体的には、GER を増加させるような薬物と併用することで、吸収量が低下します。 ※一般的には、GER が増加した場合、薬物の吸収速度は速くなり、吸収量は増加します。 メトクロプラミドは、D2 受容体を遮断することで、胃腸の運動を活発にします。 GER を増加させる薬物です。 よって、影響は、消化管吸収の抑制です。促進ではないため 選択肢 1 は誤りです。 エリスロマイシンは、マクロライド系抗生物質です。 CYP3A4 で代謝されます。 トリアゾラムは、ベンゾジアゼピン(Bz)系の睡眠薬です。 やはりCYP3A4 で代謝されます。 そのため、代謝の競合がおき、肝代謝が阻害されます。 すなわち、睡眠作用が増強されることが知られています。 炭酸水素ナトリウムは、制酸薬です。 服用により、尿の pH はアルカリ側に変化します。 すると、サリチル酸のような酸性物質は イオン形の割合が多くなります。 (参考: Henderson-Hasselbalch の式 製剤学まとめました 1-1 ) 尿細管における再吸収は 受動拡散なので、イオン形が多くなれば 再吸収は減少します。 よって 影響は、尿細管再吸収の「増加」ではないので 選択肢 3 は誤りです。 メトトレキサートは、葉酸代謝拮抗薬です。 近位尿細管において、有機アニオン輸送系により、分泌されることが知られています。 又、プロベネシドは、尿酸排泄薬です。 やはり、近位尿細管において、有機アニオン輸送系により、分泌されることが知られています。 併用することで、尿細管分泌が阻害されます。 以上より、正解は 2,4 です。 問172 ある薬物100 mgをヒトに静脈内投与したところ 下の片対数グラフに示す血中濃度推移が得られた。 この薬物を50 mg /hの速度で定速静注するとき 投与開始2時間後の血中薬物濃度 (μg/mL) に最も近い値はどれか。 1つ選べ。 1 1.8 2 3.6 3 7.2 4 14.4 5 28.8 解法1:公式を覚えていて、頑張って計算する方法 片対数グラフで、直線になっていることから、1-コンパートメントモデルと考えることができます。 次に、分布容積(Vd)、半減期(T1/2)、消失速度定数(ke)を読み取ります。 グラフから、時間0の時に、血中濃度が 10 (μg/mL)で 時間 2 の時に、血中濃度が 5 (μg/mL)であるから 半減期が 2h であると読み取ることができます。 又、半減期と消失速度定数は、下の式の関係で求めることができます。 よって、半減期が 2h なので、ke は0.35です。 又、分布容積は Vd = X(投与量)/C0(時間 0 の時の濃度)なので 10Lと計算することができます。 さて、定速静注時の血中濃度は ※ t は時間 ※k0は、定速静注の速度 と表わされるので、求める濃度は ここで、eが出てくる部分を、大雑把に計算すると なので よって、e-0.7 を大体 0.5 ぐらいと考えて 求める C は大体 7。 以上より、正解は3です。 解法2:大雑把に計算する方法 100mg 一気に注射すると、Cが最初10、2時間で半分になって5。 次に 2 回に分けて注射したとする。 50mg 注射して、Cの最初は 5 となるはず。 一時間経ったら、Cはよくわからないけど 又 50mg 注射するから、Cが5上がる。 で、さらに一時間後を考える。 最初に注射した 50mg は2時間経過したので、C として 2.5 はあるはず。 一時間後に注射した 50mg は、1 時間しか経過していないので、C として 2.5 以上あるはず。 よって、Cは 2.5 + 2.5 よりも大きい値→ 5 よりも大きい値。 とすると、一気に注射するよりは、分けて注射した方が、2 時間後の濃度は高い。 又、100mg 一気に注射した時の、初期濃度よりも高くなることはないと考えられる。 つまり、5~10 の間。 よって、正解は 3 問173 肝代謝のみで消失する薬物を経口投与する場合において 以下の変化が生じたとする。 血中濃度−時間曲線下面積 (AUC) が2倍に上昇するのはどれか。 2つ選べ。 ただし、この薬物の消化管からの吸収率は100%とし、肝臓での挙動はwell-stirred modelに従うものする。 1 肝血流速度が1/2に低下した場合 2 タンパク結合の置換により血中非結合形分率が2倍に上昇した場合 3 結合タンパク質の増加により血中非結合形分率が1/2に低下した場合 4 肝代謝酵素の誘導により肝固有クリアランスが2倍に増加した場合 5 肝代謝酵素の阻害により肝固有クリアランスが1/2に低下した場合 well - stirred model であるということは、肝組織及び、血管中の薬物は 十分混ぜあわせられており、均一であるということである。 イメージは、下図のようになります。 イメージを参考にすると 肝血流速度が1/2になっても、血中の薬物濃度であるCは変化しません。 すると血中濃度-時間曲線下面積も変わらないと考えられます。 よって、選択肢 1 は誤り。 さて、肝代謝のみで消失する薬物を経口投与すると 肝初回通過効果による薬物の消失をまず受けます。 この消失速度は、肝固有クリアランス × 肝組織中の血中濃度で表されます。 モデルから、肝組織中の血中濃度は、Cout × fu(タンパク非結合率)と表されます。 よって、消失速度は CLint × (Cout ×fu)です。 消失速度が分かったので、これを時間で積分すれば 「肝初回通過効果による薬物の消失量」がわかります。 Coutを積分すれば、AUCなので 肝初回通過効果による薬物の消失量 = CLint × fu × AUC と表されます。 投与した薬物の量は、変化していないのだから 肝初回通過効果による薬物の消失量、すなわち、上の等式の左辺は一定です。 よって、CLint が半分になったり、fu が半分になると、AUC が2倍になるとわかります。 ちなみに、選択肢 1 に関しても、この式に肝血流速度が関与しないことから 誤りであると判断することができます。 以上より、正解は 3,5 です。 問174 薬物の溶解及び製剤からの放出に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。 1 ヒグチ (Higuchi) の式において、放出される薬物の累積量は時間の平方根に比例する。 2 ヒクソン−クロウェル (Hixson−Crowell) の式は、粒度分布を持つ粉体の溶解現象を表す式である。 3 固体分散体中の薬物は、その薬物結晶に比べて溶解速度が小さい。 4 安定形の結晶は、準安定形の結晶に比べて溶解速度が大きい。 5 無水物は、水和物に比べて水中での溶解速度が大きい。 ヒグチ(Higuchi)の式とは、以下で表されるような マトリックス型製剤における 薬物の放出量と、時間の間に成り立つ関係式です。 イメージとしては、表面から放出されるため、だんだん放出量が少なくなり 放出量が、時間の平方根に比例する(単純に、時間に比例するわけではない)という 関係式です。 ※Q:単位面積当たりの累積薬物放出量 ※D:拡散定数 ※A:マトリックス中の薬物の全濃度、Cs:溶解度 ※t:時間 一般に、「固体」の薬物がマトリックス全体に分散している時は はるかに溶解度よりもAが大きい、すなわち A>>Cs なので、近似した、以下の式が用いられます。 ヒクソン-クロウェルの式は、溶解における固体薬物の表面積の減少を 考慮に入れた、溶解現象における質量と時間の関係を表す式です。 式は、以下で表されます。 ※W0:固体粒子の初期質量、W:時間tにおける固体粒子の質量 ※k:みかけの溶解速度定数 すなわち、初期濃度が溶解度よりはるかに小さいこと(シンク条件と呼ばれます)と 粒子径一定の粒子が、球状を保ちつつ溶解するという仮定です。 よって、粒度分布を持つ粉体の溶解現象を表す式ではないので、選択肢 2 は誤りです。 難溶性の物質を、固体分散体とすることで、溶解性が飛躍的に向上することが 知られています。 よって、固体分散体中の薬物の方が溶解速度が一般的に速いので 選択肢 3 は誤りです。 準安定系の方が、安定系よりも溶解速度は大きくなります。 (イメージとしては、準安定系の方が、エネルギー的に不安定であり 溶液に解けた状態というのは、とても安定な状態なので より速く安定になりたいため、速く解けるイメージです。 就職活動で、何社も落ちている状態の人(準安定系のたとえ)が どんな所でもいいからとりあえず内定1つもらいたくなる(速く安定したい)心理 と対比すると、記憶しやすいかもしれません。) よって、選択肢 4 は誤りです。 無水物の方が、水和物に比べて水中での溶解速度が大きいです。 (イメージとしては、準安定系と同様に、無水物の方が、エネルギー的に不安定であり 溶液に解けた状態というのは、とても安定な状態なので より速く安定になりたいため、速く解けるイメージです。 補足として、なぜ水和物の方が安定かといえば、溶媒に取り囲まれることによる 溶媒和の影響が大きな要因と考えられます。) 以上より、正解は 1,5 です。 問175 界面活性剤の性質に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。 1 ソルビタンモノステアレートのHLB (hydrophile – lipophile balance) 値は ソルビタンモノラウレートのHLB値に比べて小さい。 2 水溶液の当量伝導度(モル伝導率)は、ある濃度以上で急激に上昇する。 3 アルキル硫酸ナトリウムの直鎖アルキル基 (C10H21 〜 C18H37) の炭素数が増加すると、クラフト点は高くなる。 4 臨界ミセル濃度以上では、溶液中にミセルとしてのみ存在する。 ソルビタンモノステアレートは、別名スパン 60 と呼ばれます。 HLB値は、約 3.8 です。 又、ソルビタンモノラウレートは、HLB 値は、約 8.6 です。 HLB値とは、界面活性剤の水及び油への親和性の程度を表す尺度です。 7より大きいと親水性です。 実際の試験において、このHLB価はおそらく覚えていないので ステアレート→ステアリン酸、つまり炭素数 18 の飽和脂肪酸 ラウレート→ラウリル酸、つまり炭素数 12 の飽和脂肪酸 ということを思い出す。 →脂肪酸部分が、炭素数が多い方がより疎水性の性質を持つはず →ソルビタンモノステアレートの方がHLB値は小さい と推測するとよいと考えられます。 モル伝導率とは、1mol あたりの電気伝導率です。 原則として、濃度が上がると低下する値です。 界面活性剤においては、臨界ミセル濃度を超えると、急激に低下します。 これは、臨界ミセル濃度を超えることでミセルが形成されることにより イオンが移動しづらくなり、電気伝導度が下がることが原因であると考えられます。 よって、選択肢 2 は誤りです。 クラフト点とは、イオン性界面活性剤の溶解度が急激に増大する温度のことです。 この温度以上において、ミセル形成が可能になります。 クラフト点は、疎水性部分が大きいほど高いことが知られています。 これは、炭素数が大きいと、小さいものより疎水性が増加し、水に溶けなくなる →溶けなすぎると、界面が埋まるほど溶けないため、ミセル形成はおきない →温度を上げると、溶解度が上がるから、溶ける量がある程度(臨界ミセル濃度)を 超えた所でミセル形成がおきる。 →よって、炭素数が大きいほど、ミセル形成ができる量まで溶けるようにするためには 温度をより上げなければならない という理由によると考えられます。 臨界ミセル濃度以上では、界面活性剤は、界面にびっしり存在する上に 溶液中にミセルとして存在し、更に単独の分子も存在すると考えられます。 よって、選択肢 4 は誤りです。 以上より、正解は 1,3 です。 問176 粉体の性質に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。 1 粉砕しても、その比表面積は変化しない。 2 粉砕すると、安息角は小さくなる。 3 粒子径が大きいほど、空隙率が大きい粉体層を形成する。 4 個数平均径 Dn と質量平均径 Dw を比較すると、Dn < Dw である。 5 ガス吸着法や空気透過法による粒子径測定では、粒度分布は得られない。 比表面積とは、単位質量あたりの表面積、又は、単位体積あたりの表面積です。 粉砕すると、質量、総体積は変わらず、表面積が大きくなるため 比表面積は大きくなります。 よって、比表面積は変化しないわけではないので、選択肢 1 は誤りです。 安息角とは、粉体を静かに落下させた時に、円すい形に堆積した時の 円すいの母線と、水平面のなす角です。 粒子径が小さくなると、安息角は一般に増加します。 粉砕するとは、粒子径が小さくなるということなので 安息角は大きくなります。よって、選択肢 2 は誤りです。 空隙率とは、単位体積あたりのすきまの割合のことです。 粒子径が「小さく」なるほど、凝集性が大きくなり 空隙率が大きくなることが知られています。 よって、選択肢 3 は誤りです。 個数平均径とは ※niは、粒子数。diは粒子径。 です。 一般に、他の平均径よりも、分布の形に関係なく、小さくなります。 質量平均径とは ※niは、粒子数。diは粒子径。 です。 一般に、他の平均径よりも、分布の形に関係なく、大きくなります。 ガス吸着法や、空気透過法は、粉体粒子の比表面積を求める測定法です。 よって、粒度分布を得ることはできません。 ガス吸着法のイメージ 空気透過法のイメージ 比表面積は、コゼニー・カーマンの式と呼ばれる、以下の式で求めることができます。 ※μ0は、通過させる気体の平均流速 ※⊿pは、圧力損失、gc,kは定数。 ※μが流体の粘度、Lが通過させる層の長さ ※εは、粉体の空隙率 ※S0は、比表面積 以上より、正解は 4,5 です。 問177 無菌製剤に関する記述のうち、正しいのはどれか。 1つ選べ。 1 懸濁性点眼剤中の粒子は、通例、最大粒子径75μm以下である。 2 注射剤の溶剤として、有機溶剤を用いることはできない。 3 点眼剤の添加剤として、ホウ酸を用いることはできない。 4 懸濁性注射剤は、静脈内に投与できる。 5 乳濁性注射剤は、脊髄腔内に投与できる。 懸濁性点眼剤中の粒子は、製剤総則によれば、通例、最大粒子径75μm以下です。 注射剤の溶剤として、主薬が水にあまり溶けない場合は、エタノールやポリエチレングリコールなど つまり、有機溶剤が用いられます。 よって、有機溶剤を用いることができないわけではないので、選択肢 2 は誤りです。 点眼剤の添加剤として、pH緩衝剤として、ホウ酸が用いられることがあります。 よって、ホウ酸を用いることができないわけではないので、選択肢 3 は誤りです。 懸濁性注射剤は、製剤総則によれば、通例、血管内に投与しないとあります。 よって、静脈内に投与することができないので、選択肢 4 は誤りです。 乳濁性注射剤は、製剤総則によれば、脊髄腔内に投与しないとあります。 よって、脊髄腔内に投与することができないので、選択肢 5 は誤りです。 以上より、正解は 1 です。 問178 ピロカルピン塩酸塩1%点眼剤を100 mL調製するとき、等張化するのに0.66 gの食塩を必要とした。ピロカルピン塩酸塩3%点眼剤を100 mL調製するとき、等張化するのに要する食塩の量 (g) に最も近い値はどれか。 1つ選べ。 1 0.09 2 0.18 3 0.36 4 0.48 5 0.60 100 mL で等張な溶液には、食塩なら 0.9% すなわち、0.9 g 入っていることになります。 よって、ピロカルピン塩酸塩 1 % 溶液は、0.9 - 0.66 = 0.24 g の食塩に相当する量の溶質が含まれています。 1%で 食塩 0.24 g に相当するのだから 3%で 食塩0.72 g に相当するはずです。 よって、必要な食塩の量は 0.9 - 0.72 = 0.18 gです。 以上より、正解は 2 です。 問179 製剤化に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。 1 乾式顆粒圧縮法は、水分や熱に対して不安定な薬物を錠剤化するのに適する。 2 糖衣コーティングは、フィルムコーティングと比較して工程に要する時間が短い。 3 滴下法による軟カプセル剤の製造では、薬物の充てんとカプセル被膜の形成が同時に行われる。 4 凍結乾燥法で注射剤を製造する場合、賦形剤を添加することはできない。 乾式顆粒圧縮法とは、薬剤及び添加剤の混合物を、適当な方法で圧縮成形する製造法です。 特徴として、水を使用しない点が挙げられます。 そのため、乾燥工程も必要がありません。 よって、水分や熱に対して不安定な薬物の錠剤化に適します。 糖衣コーティングとは、フィルムコーティングの上から、砂糖の皮膜をほどこした錠剤です。 糖衣のコーティングの分だけ、より時間がかかります。 よって選択肢 2 は誤りです。 ※参考)それぞれの長所を兼ね備えた錠剤コーティング技術について http://www.ssp.co.jp/corporate/csr/coating/ (エスエス製薬。CSR活動) 滴下法とは、二重ノズルの内側のノズルからカプセル内容液が 外側からカプセル皮膜液が流れるような、軟カプセルの製造法です。 薬物の充てんと、カプセル皮膜の形成が同時に行われます。 製剤総則によれば、凍結乾燥注射剤は、有効成分及び賦形剤などの添加剤を 注射用水に溶解し、無菌ろ過し、直接の容器に充てんした後に凍結乾燥するか又は、、、 とあります。 よって、賦形剤を添加することができないわけではないので、選択肢 4 は誤りです。 以上より、正解は 1,3 です。 問180 日本薬局方の製剤試験法に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。 1 注射剤の採取容量試験法は、内容物が容器に表示量どおりに正確に充てんされていることを確認する試験法である。 2 点眼剤の不溶性異物検査法は、不溶性異物の大きさ及び数を測定する方法である。 3 眼軟膏剤には、無菌試験法が適用される。 4 軟膏剤には、鉱油試験法は適用されない。 採取容量試験法とは、表示量よりもわずかに過剰に採取できる量が 容器に充てんされていることを確認する試験法です。 よって、表示量どおりに正確に充てんされていることを確認する試験ではないので 選択肢 1 は誤りです。 不溶性異物検査法とは、注射剤中の不溶性異物の有無を調べる検査法です。 肉眼で観察し、たやすく検出されるような異物が含まれているかどうかを確認します。 よって、大きさや数を測定するわけではないので、選択肢 2 は誤りです。 眼軟膏剤とは、結膜嚢に適用する、無菌に製した軟膏剤です。 よって、無菌試験法が適用されます。 鉱油試験法は、非水性の点眼剤、注射剤に適用します。 軟膏剤には適用されません。 ※語呂:『こういうヒステリーには、重点的に注意』 という語呂が知られています。 以上より、正解は 3,4 です。 |