問298-299
50歳男性。庭で草むしり中にハチに刺された。 その直後に全身の瘙痒感と発赤が認められ、口唇部から頸部にかけての違和感と呼吸苦が出現した。 40分後に救急搬送され、治療が開始された。 搬送時には、頸部、体幹、四肢に広く膨隆疹、頭部顔面全体に発赤腫脹を認め、意識はもうろう状態であった。
検査データ:血圧 78mmHg/測定不能(収縮期/拡張期)、脈拍 98bpm、呼吸数 25回/min、酸素飽和度 90%、体温 35.8℃ 動脈血ガス:pH 7.38、PaO2 68Torr、PaCO2 33Torr
問298
この患者の病態や症状に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.発症にはⅢ型アレルギーが関与している。 2.肥満細胞からの化学伝達物質の急激な放出により、全身ショック状態になった。 3.通常は原因物質侵入後5~10分以内に症状が発現する。 4.血圧低下の原因は血管透過性の低下である。 5.酸素飽和度は正常である。
正解 (2)、(3)
アナフィラキシーショックは Ⅰ型アレルギーの一種です。 花粉症などと同じ分類です。
メカニズムは、過剰な免疫応答であり IgEを介しての肥満細胞の 脱顆粒などが引き起こされます。
ハチに刺されて 0~30分以内という、即時に 症状が表れます。
症状としては、大雑把に言えば 色んな液や物がどばっと色んな所から出ます。 具体的には 多尿、呼吸困難、流涙、嘔吐 下痢、不安などです。
ミクロなレベルでは 血管拡張と、血流から組織への体液流出 それに伴う浮腫、血流量の低下に伴う低血圧 代償としての頻脈が引き起こされます。
ショック状態が起きている場合 アドレナリン注射が第一に求められます。 皮膚症状に対して 抗ヒスタミン薬やステロイドも用いられます。
以上より 問298 の選択肢 1,4 は誤りです。 正解は 2,3 です。
ちなみに、選択肢 5 ですが 酸素飽和度は 96%未満に落ちているので 正常ではありません。
問299
初療段階でこの患者に使用する注射薬として適切でないのはどれか。2つ選べ。
1.ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム 2.ヒトインスリン 3.d-クロルフェニラミンマレイン酸塩 4.アドレナリン 5.プロプラノロール塩酸塩
正解 (2)、(5)
適切な注射薬は 選択肢 1,3,4 です。 1 がステロイド、3 が抗ヒスタミン薬 です。
従って、正解は 2,5 です。
類題 98-294、99-64
問300-301
70歳女性。3日前から全身倦怠感、前日から38℃台の発熱があった。 起床時に立ち上がることができなかったため、救急搬送された。
搬送時の検査データ:意識 やや混濁、血圧 82/56mmHg、心拍数 105bpm、呼吸数 23回/min、酸素飽和度 93%、体温 38.6℃、左肋骨脊柱角に叩打痛あり、白血球数 16,500/μL、CRP 20.8mg/dL、BUN 41.5mg/dL、Cr 2.3mg/dL
尿のグラム染色では、大腸菌を疑わせるグラム陰性桿菌を多数認めた。 救急外来でブドウ糖加乳酸リンゲル液の点滴を行ったところ、意識状態、血圧、心拍数に改善が認められた。 この時点で、抗菌薬を投与することとなった。
問300
薬剤師が推奨すべき抗菌薬として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1.ベンジルペニシリンカリウム 2.セフトリアキソンナトリウム 3.ダプトマイシン 4.エリスロマイシンラクトビオン酸塩 5.リネゾリド
正解 (2)
選択肢 1 ですが ペニシリン系は 大腸菌を代表例とした グラム陰性桿菌には無効です。 よって、推奨すべきではないと考えられます。
選択肢 3,5 ですが これらはMRSAといった耐性菌に用いられる 抗菌薬です。 推奨すべき根拠がありません。 よって、これらの選択肢は誤りと考えられます。
選択肢 4 ですが エリスロマイシンは 適応菌種に大腸菌は含まれません。 よって、推奨すべきではないと考えられます。
以上より、正解は 2 です。 セフェム系抗生物質です。 適切と考えられます。
問301
本患者は敗血症と診断された。 本患者の病態及び薬物治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.敗血症では白血球が減少することはない。 2.敗血症は、症状と血液検査で疑い、血液培養を行い、病因診断を行う。 3.患者の治療を優先するために、抗菌薬投与後に血液培養を行う。 4.発熱は十分な輸液により改善する。 5.治療後には腎機能の改善を認める。
正解 (2)、(5)
選択肢 1 ですが 診断基準の一つが WBC > 12000 or <4000 です。 従って、減少することがないというのは 明らかに誤りです。
選択肢 2 は、正しい記述です。
選択肢 3 ですが 抗菌薬投与後に血液培養を行ってしまうと 菌の検出可能性が減少してしまいます。 本問症例では、輸液で状況が改善していることも ふまえて考えると、不適切であると考えられます。
選択肢 4 ですが 少なくとも十分な輸液をすれば 必ず改善する とはいえないだろうと 考えることで、誤りと判断できます。
選択肢 5 は、正しい記述です。 急性の腎不全は可逆的機能不全です。
以上より、正解は 2,5 です。
問302-303
68歳男性。肝細胞がんによる肝部分切除後に痛みが出現したため疼痛治療を開始した。 1ヶ月前から医療用麻薬が導入され、2週間前に増量された。 今回、肝細胞がん再発の治療のため入院となった。 緩和ケアチームの薬剤師は、患者へのインタビューにより、「痛みのコントロールは良好だが、2週間ほど前から眠気が強くなり昼間でも傾眠傾向あり」との情報を得た。
現在の処方 モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠10mg 1回2錠(1日4錠) 1日2回 8時、20時 7日分 モルヒネ塩酸塩内用液5mg 1回1包 疼痛時 5回分(全5包) 酸化マグネシウム錠330mg 1回2錠(1日6錠) 1日3回 朝昼夕食後 7日分
検査データ:NH3 50μg/dL、Alb 3.0g/dL、Na 137mEq/L、Cl 104mEq/L、K 5.3mEq/L、Ca 8.7mg/dL、BUN 25mg/dL、Cr 1.28mg/dL、Ccr 38.2mL/min、腹水 (-)、脳への転移 (-)
問302
薬剤師は患者の眠気の原因を考察した結果、モルヒネ硫酸塩水和物から他の鎮痛薬への変更の必要性を医師に相談することにした。 薬剤師が推奨すべき薬物として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.フェンタニルクエン酸塩 2.プレガバリン 3.オキシコドン塩酸塩水和物 4.ペンタゾシン 5.トラマドール塩酸塩
正解 (1)、(3)
副作用の改善や 鎮痛効果の増強などを目的として オピオイドの種類を変更するこ とを オピオイドローテーションといいます。
オピオイドローテーションは 通常、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル の間で行います。 よって、正解は 1,3 です。
問303
この患者の病態と薬物治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.他の鎮痛薬へ変更しても、便秘は軽減できない。 2.排泄障害により、モルヒネの血中濃度が上昇し傾眠傾向となっている。 3.モルヒネの代謝物が、オピオイド受容体に対する作用増強の原因となっている。 4.鎮痛薬の変更と同時にナロキソンを投与して傾眠を改善させる。 5.腎機能の悪化が、眠気を引き起こすことになった要因として考えられる。
正解 (3)、(5)
選択肢 1 ですが 鎮痛薬の変更により 便秘の軽減を期待できます。 よって、選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが 排泄障害について判断できる情報は ありません。 正しい記述とは考えられません。
選択肢 3 は、正しい記述です。
選択肢 4 ですが ナロキソンは 急性中毒における呼吸抑制や 覚醒遅延の改善に用います。 傾眠の改善には用いません。 よって、選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は、正しい記述です。 Ccr(クレアチニンクリアランス)が 38.2 (基準値は 100~120mL/min)と 低くなっており、腎機能悪化が考えられます。
以上より、正解は 3,5 です。
問304-305
産婦人科の医師から、医薬品情報室に「帝王切開前の皮膚消毒に用いる消毒薬として、クロルヘキシジンとポビドンヨードのどちらが手術部位感染を予防するのに良いか。」との問い合わせがあった。 情報収集の結果、クロルヘキシジン(2%クロルヘキシジングルコン酸塩+イソプロピルアルコール)群と、ポビドンヨード(8.3%ポビドンヨード+イソプロピルアルコール)群を比較した論文を見出し、表に基づいて説明した。
問304
薬剤師の説明として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.主要評価項目は、手術部位感染の発症率と平均入院期間であった。 2.クロルヘキシジン群では、ポビドンヨード群と比べて、手術部位感染のリスクが45%減少することが示されている。 3.クロルヘキシジン群では、ポビドンヨード群と比べて、深部の手術部位感染のリスクは統計学的に有意に小さい。 4.クロルヘキシジン群、ポビドンヨード群ともに、入院期間の中央値は4日間であった。 5.再入院までの期間は、クロルヘキシジン群、ポビドンヨード群においてそれぞれ19日間、25日間であった。
正解 (2)、(4)
選択肢 1 ですが 「主要評価項目」とは 「Primary outcome」のことです。 ここには「Surgical-site infection」とあります。 これは手術部位感染 のことです。
平均入院期間は 主要評価項目ではありません。 よって、選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は、正しい記述です。 Relative Risk つまり相対リスクが 0.55 と読み取れます。 これは、リスクが 0.45 つまり 45% 減少しているということです。
選択肢 3 ですが 深部の感染は 「Deep incisional」の行に注目します。
すると、95%CI(95%信頼区間)が 0.43(0.17-1.11)とあります。 1をまたいでいるので、有意差はなしです。 よって、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は、正しい記述です。 「入院期間の中央値」とは 「Median length of hospital stay」です。
選択肢 5 ですが 「再入院」は 「Hospital readmission」です。 この項目は no.(%)とあります。
つまり、クロルヘキシジン群であれば N=573 に対して 19 人が再入院し その割合は 3.3 % ということです。 19日間ではありません。 よって、選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 2,4 です。
問305
この研究に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.この研究は介入研究である。 2.Primary outcomeとは真のアウトカムのことである。 3.Randomized trialでは交絡因子の制御が困難である。 4.ITT解析により、当初の患者背景因子の同等性が保持されていると考えられる。 5.生存時間分析を行っている。
正解 (1)、(4)
選択肢 1 は、正しい記述です。 介入研究とは 疾病と因果関係があると考えられる要因に 積極的に介入する研究です。
選択肢 2 ですが Primary Outcome とは 主要評価項目のことです。 これは、臨床試験における 目的とする評価項目です。
一方、真のアウトカムとは 患者の死亡数の減少といった 患者にとって直接的に重要な結果 のことです。
よって、選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが 交絡因子が不明な場合の有効な手法が ランダム化試験です。 ランダム化により 臨床試験における違い以外が 均等であると期待できます。 よって、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は、正しい記述です。 ITT解析とは、臨床試験中に副反応等で 当初の割当を変更することがあるのですが その影響を考慮し、より実用的価値を 評価する手法です。
選択肢 5 ですが 生存時間の分析は行われていません。 よって、選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 1,4 です。
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