1-2 4) ラセミ体とメソ化合物







◆ラセミ体


ラセミ体とは、互いにエナンチオマーである2つの化合物が等量混ざり合った混合物のことです。
そのため、これは単一化合物を指す言葉ではないことに気をつけてください。


コーヒーと牛乳が仮にエナンチオマーの関係であるなら、コーヒー:牛乳=50:50のコーヒー牛乳が「コーヒー牛乳のラセミ体」であるといえます。
コーヒー:牛乳=80:20のコーヒー牛乳はラセミ体ではありません。

乳酸を例に挙げますと、乳酸にはR-乳酸とS-乳酸があり、これらは互いにエナンチオマーです。
それぞれの乳酸は光学活性ですが、純粋なR-乳酸の旋光度がx
°であったなら、純粋なS-乳酸の旋光度は-x°となります。そこで、純粋なR-乳酸に少しずつS-乳酸を混ぜていくと徐々にその旋光度が下がっていき、やがて等量になったところで旋光度が0°になります。
この旋光度が0
°で光学不活性な混合物が「乳酸のラセミ体」です。



メソ化合物(メソ体)

まず最初に気をつけて欲しいことは、メソ化合物は「化合物」なので、単一の物質であるということです。
上述のラセミ体は混合物であるのに対し、こちらは単一の化合物であることに注意してください。
化合物であることを強調するために「メソ化合物」という表記を最初にしましたが、「メソ体」と呼ぶことのほうが一般的には多いように思います(どちらも同じ意味です)。

メソ体とは、不斉中心を持っているけれどもアキラルな化合物のことを指します。
アキラルなので、光学不活性となります。具体的には下図を参照してください。





図1.メソ体の酒石酸



上図は酒石酸という化合物ですが、その構造式を見てわかるように不斉中心(不斉炭素)を2つ持っています。
一般的には不斉中心を持つ化合物はキラルな化合物で、光学活性を持ちます。
では、この化合物のエナンチオマーはどのようなものかと考えますと、手前に出ている2つの-OH基が両方とも奥側に伸びる構造を考えれば良いので、下図右側のようになります。






図2.  図1の酒石酸(左)とそのエナンチオマー?(右)



右側の化合物は左側の化合物のエナンチオマーなので、図1とは別の化合物であるはずです。
しかし、左側の構造を回転させると(縦方向はそのままで、横方向に紙を裏返すイメージです)、右側の構造と完全に重なってしまいます。
回転によって重なるものは同一化合物であるため、結局この2つの化合物はエナンチオマーではないことがわかります。
このように、不斉中心があるけれど、エナンチオマーを持たないアキラルな化合物がメソ体です。




立体構造、ここまでの整理

エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、メソ体の理解は重要なので、酒石酸を例にとって以下にまとめます。

    


                                図3. 3種の酒石酸

エナンチオマーやジアステレオマー、メソ体の関係については上図で確認してください。
図の上側の2つの化合物のように、鏡合わせの構造を取る関係がエナンチオマーです。
また、互いにエナンチオマーである2種の化合物を同じ量ずつ混ぜ合わせたものがラセミ体です。

エナンチオマーではないけれども立体異性体であるもの同士の関係はジアステレオマーとなります。
図でいうと、上側の構造式と下側の構造式の関係がそれに当たります。

そして、不斉中心を持つけれどもキラルでない(=アキラル)化合物をメソ体と呼びます。
図でいうと下側の2つの化合物で、これらは全く同じ化合物となります。