1H-NMRスペクトルを見ると、シグナルが分裂していることが多々あります。 この分裂のことを、カップリングまたはスピン-スピン結合またはスピン-スピン分裂といいます。 これは、非等価な水素が隣接しているために起こる相互作用によるもので、構造解析においては重要なヒントになります。 たとえば、エタン(CH3-CH3)は隣接水素がいくつもありますが、これらはいずれも等価な水素であるため、 そのシグナルは分裂せず、次のような1本線のかたちになります。 このようなシグナルを単一線(シングレット、s)といい、上記の通り、隣接する非等価な水素がないことの証拠になります。 続いて、たとえば1,1-ジクロロエタン(CH3CHCl2)について考えてみると、赤色の水素(CH3CHCl2)から見ると、 赤色自身の3つの水素は全く等価であり、赤色の水素と結合している炭素に隣接する炭素に結合する紫色の水素は、 非等価な水素だといえます。 この場合、赤色の水素のシグナルは以下のように分裂します。 このようなシグナルを二重線(ダブレット、d)といい、隣接する非等価な水素が1つあると、1回分裂して二重線になります。 反対に、1,1-ジクロロエタン(CH3CHCl2)の紫色の水素から見ると、非等価な水素(赤色)が3つあります。 この場合、紫色の水素のシグナルは以下のように分裂します。 このようなシグナルを四重線(カルテット、q)といい、隣接する非等価な水素が3つあると3回分裂するので四重線になります。 同様に、三重線や七重線などもあるので、参考までにそれぞれの呼び方を紹介しておきます。 ・ 単一線(シングレット、s) … 非等価な隣接水素がない ・ 二重線(ダブレット、d) … 非等価な隣接水素が1つだけある ・ 三重線(トリプレット、t) … 非等価な隣接水素が2つある ・ 四重線(カルテット、q) … 非等価な隣接水素が3つある ・ 五重線(クインテット、quin) … 非等価な隣接水素が4つある ・ 六重線(セクテット、sext) … 非等価な隣接水素が5つある ・ 七重線(セプテット、sep) … 非等価な隣接水素が6つある (中略) ・ 多重線(マルチプレット、m) … 非等価な隣接水素が多すぎてシグナルからは判断できない 以上からわかるように、ある水素のシグナルを見たとき、それがn重線に分裂していたら、 その水素が結合している炭素の隣の炭素に結合する(非等価な)水素の数が n-1 個あると判断することができます。 このルールは構造解析をするにあたって、化学シフトとともに最重要のヒントになります。 次項にて、例題を使って構造解析をしていくので、ぜひこのルールを確認しながら構造を考えてみてください。 |