前項でも簡単に触れましたが、塩素や臭素は同位体の存在比が大きいので、同位体ピークが目立ちます。 塩素は 35Cl : 37Cl = 3 : 1 の割合比で存在し、臭素は 79Br : 81Br = 1 : 1 の割合比で存在します。 つまり、塩素を1つ含んだ化合物の分子量を M とすると、そのマススペクトルの分子イオンピークは M になりますが、M+2 のところにおよそ25%の高さの同位体ピークが見られることになります。 また、臭素を1つ含んだ化合物(分子量を M とする)の場合、M+2 のところに分子イオンピークと 同じくらいの高さの同位体ピークが見られることになります。 臭素を2つ含む化合物も特徴的です(塩素より説明が簡単なので、先に臭素の解説をします)。 結論から先に書くと、臭素を2つ含む場合、M : M+2 : M+4 のピークが 1 : 2 : 1 の高さで検出されます。 これは、2つの臭素を Bra と Brb とすると、 (79Bra、79Brb)、(79Bra、81Brb)、(81Bra、79Brb)、(81Bra、81Brb) の4つの組み合わせがあるためです(79Br : 81Br = 1 : 1なので、4つのそれぞれの存在比は1:1)。 では、続いて塩素を2つ含む化合物について考えますが、塩素は 35Cl : 37Cl = 3 : 1 なので、 臭素よりはややこしいです。 結論から先に書くと、塩素を2つ含む場合、M : M+2 : M+4 のピークが 9 : 6 : 1 の高さで検出されます。 考え方は臭素のときと同様ですが、35Cl と 37Cl の存在比が 3:1 であることから、 (3a+b)2 = 9a2 + 6ab + b2 の係数がピーク高さの比になると考えればよいです。 ◆窒素を含むマススペクトル◆ 有機化合物は炭素と水素のほか、酸素と窒素を含んでいることが多くあります。 このうち、炭素、水素、酸素の3種類のみから構成される有機化合物の分子量は基本的に偶数になります。 色々な有機化合物を思い浮かべて試してみれば良くわかると思いますが(ぜひ考えてみてください)、 炭素と酸素は原子量が偶数なので、分子量が奇数ということは水素の数が奇数ということになるものの、 炭素は結合の手が4本、酸素は手が2本であることを考えると、どのように組んでも水素の数が偶数になるからです。 しかし、窒素が入ってくるとこのルールが崩れます。窒素は手が3本なので、 水素を奇数にすることができるためです。 逆にいえば、マススペクトルの分子イオンピークが奇数であれば、 その化合物は窒素を含むと当たりをつけることができます。 より具体的には、分子イオンピークが奇数なら、化合物は窒素を奇数個含んでいると考えることができ、 分子イオンピークが偶数なら、化合物は窒素を偶数個(0個の可能性もあり)含んでいると考えることができます。 |