9) 肝クリアランスおよび肝固有クリアランス


【クリアランス、全身クリアランス】

まず、クリアランスとは何か
クリアランスのイメージについて説明します。


クリアランス(CL と略します。)とは
「薬物を取り除く能力を示す数値」 です。


「薬物入りの血液を
一時間で何 L きれいにできるか示す数値」
と考えると、イメージしやすいかもしれません。


他には、コンビニやスーパーで
カゴに品物を入れてレジに向かってくる
人の流れ を考えてみてください。

「カゴに入った品物」=「薬物」
「カゴを持っている人」=「血流」 のたとえです。

クリアランスとは
1時間で何人レジで捌けるか を示す数値
と考えてもよいと思います。


意味としては以上ですが
クリアランス という単語が出て来たら
『薬物の消失速度=クリアランス×薬物濃度』・・・(1)
という関係を、知識としてぜひ憶えておいてください。

レジの例えで言えば
クリアランス=人の数
薬物濃度=カゴの中の品物の個数 に対応します。

式(1) の右辺は、例えでいうと
人の数 × カゴの中の品物の個数 だから
 「品物をレジで何個捌いたか」 という意味です。

品物を捌いた個数は
薬物の消失速度 の例えになります。



次に、全身クリアランス についてです。


人体において
薬物は様々な臓器で代謝を受けます。

代謝において特に重要な臓器は
肝臓と腎臓です。

そこで、全身のクリアランスは
肝臓のクリアランスと、腎臓のクリアランスの和だ
と考えます。

式で表すと、以下になります。

全身 CL = 肝臓 CL + 腎臓 CL


ここまでが、クリアランスの一般的な話です。


確認問題
1:クリアランスを一言で表すと?
2:全身CL=?+?



【肝クリアランス】

次に
肝クリアランスについて説明します。


肝クリアランスとは
肝臓において、薬物入りの血液を
一時間で何 L きれいにできるか示す数値
と考えればよいです。

イメージは、下図になります。


式で表すと、以下のようになります。
・・・(2)


肝CL = の形に直したのが、以下の式です。

・・・(2)’


具体的な数で、2例考えてみましょう。

例1)
肝臓に流入する血液量は
大体 1 分間に 1 L なので
1 時間で、 60 L です。
Q = 60 (L/時) とします。

薬物は一種類で
肝臓で完全に代謝されるとします。

Cin として、適当に 10mg/L としましょう。
完全に代謝されるから
Cout は、0 mg/L です。

式(2)の右辺に代入してみると
肝CL = (60 × (10 - 0))/10 = 60 です。


例2)
Qは、60(L/時)とます。

薬物が完全に代謝されない
場合を考えます。
Cin = 10mg/L、Cout = 5mg/L とします。

例1 と同様に考えれば
肝CL = (60 × (10 - 5))/10 = 30 です。


重要なポイントとしては
『肝クリアランスは、血流量を超えない』 という点です。

(肝臓で薬物は代謝されるので
Cin よりも、Cout は小さくなります。

すると、式中の『(Cin - Cout)/Cin』 は
0 ~ 1 の値をとります。

よって、最大でも、Q×1 にしかならない
=『肝クリアランスは、血流量を超えない』 
という意味です。)


確認問題
1:肝クリアランスの式は?
2:肝クリアランスと血流量の大小関係は?




【肝固有クリアランス】

次に
肝固有クリアランス(肝固CL)について説明します。

これは、一言で表せば
「血中タンパク質と薬物の結合を考慮した
肝クリアランス」 です。

肝臓において、実際に代謝を受けるのは
血中タンパク質であるアルブミンなどと
結合していない、いわばフリー(free) の薬物です。

フリーの薬物は
血流に乗って肝臓に到達し
肝組織の細胞膜を通過することで肝組織に分布し
そこで種々の酵素によって代謝を受けます。


一方、フリーではなく
タンパク質と結合している(binded)薬物は
肝組織へ移行することなく
そのまます~っと流れていくだけです。


これは
初めのレジのたとえでいうならば
フリーの薬物 というのは
カゴに入っている品物です。

一方で、タンパク質付きの場合は
もう既に他で会計済みで
袋に入っておりレジを通す必要がない品物です。

にも関わらず、肝クリアランスは
free と binded の区別をせずに
薬物濃度として考えています。


具体的な数で考えるならば
薬物 A は 100 % フリー
薬物 B は 20 % フリー、80 % タンパク質と結合 とします。
血液量Qは、50 L/h とします。(60 L/h でないのは、計算の都合です。)

これら2つの薬物の肝クリアランスが
ともに 10(L/h) と仮定します。

つまり、薬物 A の肝クリアランスも
薬物 B の肝クリアランスも 10 L/h です。


さきほどのレジの例えで考えれば
薬物 A の肝クリアランスが示しているのは
『カゴに品物 A を入れてきた 50 人が流れてきた時
10 人を1時間で捌ける』 ということです。

一方、
薬物 B のクリアランスが示しているのは
『品物 B をレジで通さなければならない客は  
20 % の割合でしかないような、50 人が
レジに流れてきた時に
10 人を1時間で捌ける』 ということです。

同じ 10 でも、意味が全く違うことが
イメージできれば幸いです。



肝固有クリアランスが
どのように表せるかについて
以下説明します。


クリアランスを考えるには
薬物濃度が必要ですが
血中濃度ならまだしも、肝組織における薬物濃度は
よくわかりません。

肝組織における薬物濃度を
簡単なモデルで表すのが
well - stirred(ウェール スティアード) モデル です。
(日本語にすれば よく混ざってるよモデル です。)

このモデルのポイントは
肝組織の薬物濃度を
(C out) × フリーな割合(f) としたモデル』 です。


ここで
式(1) を思い出してほしいのですが
(『薬物の消失速度=クリアランス×薬物濃度』・・・(1))

(1)より、薬物濃度とクリアランスをかければ
薬物の消失速度がわかるはずです。

そして、モデルのおかげで
なぞのはずの肝組織における薬物濃度はわかります。
(C out × フリーな割合 です。)

ここで、肝固CL を仮定します。
すると、式(1)より
薬物の消失速度は
肝固CL × フリーな薬物濃度(=f × C out) と
表すことができます。


まとめると
・肝固CL とは、タンパク結合を考慮した
クリアランスです。

・well - stirred model を考えることで
薬物の消失速度 = 肝固CL × f C out 』・・・(3)
という関係がなりたつ


ここまではよろしいでしょうか。



【肝CL と 肝固CL の関係】

最後に、肝クリアランスと
肝固有クリアランスの関係についてまとめます。

肝クリアランスに関する式を再度以下に示します。
・・・(2)


これを、式(3) 
薬物の消失速度 = 肝固CL × f C out 』
と連立して、1つの式にします。


まず、(3)は
Qin(Cin-Cout) = 肝固CL × f Cout です。
この式を Cin について解きます。

QinCin =  肝固CL × f Cout + QinCout
の両辺を Qin で割ることで

Cin =  (肝固CL × f +Qin)Cout Qin ・・・(3)’
と解けます。


(3)’ を(2)に代入して整理します。
先に、右辺と左辺を入れ替えた上で
両辺を Cin で割っておくと
代入して整理した時の見通しが立ちやすいと思います。

すなわち
「肝CL = Qin - QinCout/Cin」・・・(2)’としておきます。

(2)’の Cin に(3)’を代入して 
整理することで
『肝CL=(Qin・f・肝固CL)/Qin + f・肝固CL』・・・(4) 
という関係が導かれます。

(4)の右辺は 
大雑把に見れば「ab/a+b」という式になっており
基本的な 2 変数関数と見て
性質を数学的に解析することが容易な形であるという
特徴があります。


重要なポイントが、(4)の式の近似です。

すなわち
Q<<f・肝固CL の時
(4)右辺の分母は、ほぼ f・肝固CL と見なせるため
肝 CL ≒ Qin と近似できます。

このような薬物は
血流量依存性の薬物と分類されます。
代表例は、ニトログリセリン、リドカインなどです。

これらの薬物は
肝機能の変化であまり肝CLは変化しません。
一方で、血流量、つまり心機能の低下に伴い
肝CLが低下して血中濃度が高くなる薬物といえます。


また
Q>>f ・肝固CL の時
(4)右辺の分母は、ほぼ Q と見なせるため
結局、(4)式は
『肝CL ≒ f・肝固CL』 と近似できます。

このような薬物は
代謝能依存性の薬物と分類されます。
代表例は、ワーファリン、フェニトインなどです。


以上です。



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